月経前症候群(PMS)は、多くの女性が月経周期の前に経験する身体的、感情的、行動的な変化のパターンです。これらの症状は、月経周期中に自然に起こる変化によって引き起こされます。症状が重度である場合、医師に相談することが重要です。
PMSの症状は、個人差がありますが、一般的には以下のようなものが挙げられます。
これらの症状が周期的に生じるため、PMSを経験する女性は、自分自身の身体に敏感になることが重要です。
認知行動療法(CBT)は、PMSまたは月経前不快気分障害(PMDD)の治療法として研究されています。
PMSまたはPMDDに対するCBTの効果に関する、系統的レビューには、7つの報告が確認されました。このうち3つはランダム化比較試験でした*(参考)。別の系統的レビューによると、CBTはPMS管理の主要な手段であることが判明しました(参考)。
認知行動療法は、困りごとを「苦痛」と「苦悩」に分けて考え、後者に対してアプローチする方法です。苦痛と苦悩の違いは、苦痛は物理的な痛みを指し、苦悩は心理的な苦痛やストレスを指します。
治療のターゲットは、Clが抱える不快な感情や生活の質の低下に関わる考え方や行動です。例えば、月経痛に苦しむ女性が、「痛みで何もできない私はダメな人間だ」「痛みがあるときは横になって痛みを回避しよう」という非機能的な考え方や食欲が増したりするような行動を改善することが目的となります。
認知行動療法は,月経痛による苦悩を「fear avoidance model」で考えていきます(参考)。
上の図をご確認ください。この図はfear avoidance modelを円にして図示したものです。左側の円が悪循環を示しており,右側の円は月経痛(PMS)と上手に付き合っている様子を示しています。まず、PMSによって苦痛や苦悩が引き起こされます。その後、Clは、痛みを避けるために何らかの行動を取ります。この行動は、痛みを回避するための行動である場合があります。しかし、これらの行動は、長期的には問題を引き起こすことがあります。たとえば、Clは、痛みを回避するために、家事や仕事をやめてしまうかもしれません。これにより、Clの生活の質が低下する可能性があります。
PMSに対する認知行動療法は、心理教育、疼痛管理(気分に左右されず,できる範囲の活動をする等)、PMSに関する特定の迷信に関する心理トレーニング、および学んだ役に立つ考え方の適用、役に立つ思考の開発、サポートを求めることやコミュニケーションなどPMSを改善するための特定の行動に焦点を当てた12セッション程度で構成されることが一般的です(参考)(参考)。
PMSは自分自身の力ではコントロールすることができません。さらに、個人差があるため、周囲につらさを理解してもらえないといった二次的な傷つきを経験した方も多いかもしれません。しかし、認知行動療法による研究によって、「苦悩」に対しては多少なりとも役に立てることが示唆されています。認知行動療法を実践する前の生活よりも、少しだけマシになったという小さな成功体験を積み重ねることが、月経痛(PMS)との上手な付き合い方であると考えられます。
注釈
*系統的レビューとは、医療や研究分野などで広く用いられる、科学的な手法の一つです。この方法論は、定められた方法に基づいて、事前に設定した研究項目を対象に、過去の研究を網羅的に収集し、その結果を分析しまとめたレポートを作成するものです。
**ランダム化比較試験は、医療研究において最も信頼性の高い実験デザインの一つです。この実験では、ランダム化によって選ばれた研究対象者を、治療群と対照群に分けます。治療群は、実験的な治療を受け、対照群は通常の治療やプラセボを受けます。その後、両群の結果を比較し、治療の効果を評価します。この方法によって、偶発的なバイアスを排除し、治療効果を客観的に評価することができます。