学習障害(SLD)の診断基準はDSM-ⅣからDSM-5への改定により、大きな進化を遂げました。DSM-Ⅳでは、学習障害の診断は知能水準と学習到達度の乖離に基づき、特に「読み」の障害は文字から音韻への変換の困難、すなわち音読や黙読の困難が主な診断基準とされていました。しかし、DSM-5では、新たに音読は可能であっても読解に困難を伴う場合が診断基準に追加されました。これにより、従来の発達性ディスレクシアに加え、脳損傷後の後天性失読などとの分類の整合性が高まりました。
また、「書き」の障害に関しても、文字形態の想起困難や文法の誤り、書字による思考表現の困難さが強調される一方で、単に文字の形が整わない状態(いわゆる「字が汚い」)は診断対象外とされています。さらに、計算や数学の困難もDSM-5では学習障害の一部として記載され、対象範囲が拡大しています。
質問紙法は、学習障害を簡便に評価する手法です。代表的な例として、**LDI-R(Learning Disabilities Inventory-Revised)**があります。この方法は主に、教師や保護者が対象者の日常的な行動や学習状況を観察し記録する形式です。その長所として簡便性が挙げられますが、記入者の主観に依存しやすいため、環境要因を十分に排除できない可能性があります。
直接検査法は、対象者がテストに協力することで、客観的なデータを取得する方法です。これには以下のような検査があります。
読み書き障害の背景を評価するため、以下のような認知能力検査が行われます。
読み書き能力には、以下の認知能力が関与しています。
言語の特性が読み書き障害の発現に影響を与えます。
日本語には「ひらがな」「カタカナ」「漢字」という3つの表記体系があり、それぞれ異なる認知能力が必要です。ひらがなやカタカナは音韻認識能力に依存する一方、漢字は視覚認知能力や語彙力が重要な役割を果たします。
科学的根拠に基づいた支援方法が近年発展しています。ひらがなや漢字の読み書きの正確性と流暢性を向上させる訓練が行われています。
学習障害への支援には、対象者の認知能力や日本語特有の言語特性を考慮した個別化されたアプローチが求められます。科学的根拠に基づく方法を活用し、学校や家庭が協力して適切な支援を提供することが重要です。
参考文献
Uno, A. (2017). 限局性学習障害(症)のアセスメント [Assessment of specific learning disorders]. 児童青年精神医学とその近接領域 [Journal of Child and Adolescent Psychiatry and Related Fields], 58(3), 351–358.