日常生活の中で「嬉しい」「楽しい」といったポジティブな出来事があったとき、皆さんはそれを言葉に出していますか。実は、自分自身の感情や、そのきっかけとなった出来事そのものを言葉にすること(感情ラベリング)で、主観的なポジティブな気持ちがさらに高まる可能性があることがわかっています 。
藤井亮孝・中川敦子(2025)による『感情心理学研究』に掲載された論文「ポジティブな感情のラベリングに関する基礎的研究」では、この感情を言葉にする効果が検証されています 。参加者にポジティブな画像や中性的な画像を見てもらい、その画像自体、あるいは自分の気持ちを言葉にするという実験が行われました 。その結果、ただ画像を眺めるだけの場合に比べて、感情や刺激を自分の言葉で表現した方が、主観的なポジティブな感情が高まることが示されています 。また、中性的な画像に対しては、自分自身の内面よりも【画像そのもの(刺激自体)】について言葉にした方が、瞳孔の拡大が抑えられ、即時的な生理的反応を穏やかにする効果があることも示唆されています 。
僕の臨床では、ネガティブな感情を手放すためだけでなく、こうしたポジティブな感情に目を向けることも大切にしています。ネガティブな感情を言葉にすることは心の整理に有効ですが、ポジティブな感情や出来事を言葉にすることは、日々の生活に彩りを与え、心のエネルギーを蓄えることにつながると思います。感情を言葉にするのが苦手な方にとっても、まずは「美味しい」「綺麗な景色」といったポジティブなものから言葉にしていくことは、負担の少ないステップになるかもしれません 。
感情ラベリングは、漠然とした感情に名前をつけることで、その曖昧さを減らす効果があると言われています 。また、自分自身の内面ではなく【出来事そのもの】を客観的に言葉にすることで、対象から少しだけ心理的な距離をとることができ、冷静さを保ちやすくなると考えられています 。
現実的な工夫としては、無理に自分の内側を深く掘り下げようとするのではなく、まずは目の前にある嬉しい出来事や、素敵な景色そのものに対して「きれいだな」「いい香りだな」と、心の中でラベルを貼ってみることです。手帳や日記にひと言だけ書き留めるのも良い方法だと思います。
自分の気持ちや出来事を言葉にする習慣は、意図せずとも私たちの心を整え、ポジティブな感覚を広げてくれる力を持っています 。少しずつ、あなたの日常にある「良いこと」に言葉を添えてみてはいかがでしょうか。
ご相談を通じて、ご自身の感情と向き合い、しっくりくる言葉を一緒に見つけていくサポートも行っています。
藤井亮孝・中川敦子(2025)ポジティブな感情のラベリングに関する基礎的研究 ――自己生成型におけるラベリングの対象に注目して―― 感情心理学研究, 第33巻 第1号, 1-14.