布団に入ると、昼間の失敗や明日の心配事が頭を巡り始め、動悸がしてくる。
眠ろうとすればするほど、目が冴えてしまう。
そんな「眠れない毎日」に疲れ果てていませんか。
心療内科や精神科で睡眠薬を処方してもらうことは、もちろん一つの有効な手段です。しかし、「薬がないと眠れなくなるのではないか」という不安から、薬以外の方法を探している方も多いのではないでしょうか。
今回は、心理学的なアプローチで不眠を改善する「CBT-I(不眠のための認知行動療法)」について、信頼性の高い研究データをもとにお話しします。
これは、意志の力で無理やり眠る方法ではありません。
脳と体の「誤った学習」を解くための、科学的なトレーニングです。
2015年に『Annals of Internal Medicine』で発表された、慢性不眠症に対するCBT-Iの効果を検証した研究をご紹介します。
出典
この研究では、慢性不眠症の成人を対象とした20のランダム化比較試験(参加者1162名)のデータを統合し、解析を行いました 。CBT-Iは、認知療法、刺激制御法、睡眠制限法、睡眠衛生指導、リラクゼーションなどの要素を組み合わせて行われます 2。
主な結果
治療直後の時点において、睡眠日誌のデータは以下のような改善を示しました 3。
研究チームは、CBT-Iが慢性不眠症の成人に対して有効であり、その効果は臨床的に意味のあるレベルであると結論づけています 。また、副作用の報告はなく、安全性の高さも示唆されました 。
この論文の結果は、僕が日々カウンセリングルームで感じていることとも一致します。
僕の臨床経験において、慢性的な不眠に悩む方の多くに共通しているのは、「布団=苦痛な場所」という条件づけが成立してしまっていることです。
本来、布団は「休息の場所」であり、体は布団に入ればリラックスモード(副交感神経優位)になるはずです。
しかし、「眠れない、どうしよう」「明日も早いのに」と焦りながら布団の中で何時間も過ごすことを繰り返すと、脳は「布団=不安と戦う戦場」だと誤って学習してしまいます。
その結果、リビングでうとうとしていたのに、いざベッドに入った瞬間に目がパチッと覚めて心臓がドキドキする、という現象が起きます。これは意志の問題ではなく、身体が覚えてしまった反射(条件づけ)の問題です。
また、真面目で完璧主義な方ほど、「絶対8時間は寝なければならない」といった思考(認知)に縛られ、自分を追い込んでしまいがちです。
CBT-Iのアプローチは、この「戦場と化した布団」を「安全な休息地」に戻し、睡眠に対する硬直した思考をほぐしていくプロセスだと言えます。
論文でも取り上げられているCBT-Iの要素の中から、特に「身体の反応」を変えるために有効なアプローチを2つ紹介します。これらは「刺激制御法」と呼ばれるもののバリエーションです 。
𝟭.「眠くなってから」布団に入る
「明日のために早く寝なきゃ」と、眠気がないのに早々に布団に入っていませんか?
これは逆効果になることが多いです。目が冴えた状態で布団にいる時間が長ければ長いほど、脳は「布団=起きている場所」という記憶を強化してしまいます 。
勇気がいることかもしれませんが、強烈な眠気が来るまでは布団に入らないようにしてみてください。リビングで本を読んだり、静かな音楽を聴いたりして過ごし、「もう目を開けていられない」となってから布団へ移動します 。
これによって、「布団に入った瞬間=眠りに落ちる瞬間」という新しいセットを脳に刷り込み直します。
𝟮.眠れないときは一度離脱する
もし布団に入って「𝟮𝟬分くらい経っても眠れないな」と感じたり、不安やイライラが募ってきたりしたら、迷わず一度布団から出てください。時計を見る必要はありません(むしろ時計は見ない方が良いです) 。
別の部屋や、部屋の隅の椅子に移動し、眠気が戻ってくるまでリラックスして過ごします。そしてまた眠くなったら布団に戻ります 。
これは、「不安な状態で布団の中に留まらない」という鉄則を守るためです。苦しい時間を布団と結びつけないことが、遠回りのようでいて、実は不眠解消への近道になります。
眠れない夜が続くと、出口のないトンネルにいるような絶望感を感じるかもしれません。
ですが、今回紹介した研究が示す通り、行動や環境を少し調整するだけで、睡眠の状態は変えていける可能性があります。
大切なのは、眠ろうと「努力」するのではなく、眠りの邪魔をしている「余計な条件づけ」を取り除いてあげることです。
焦らず、まずは今夜、眠くなるまで布団に入らないことから試してみませんか。
一人で取り組むのが不安な場合は、専門家と一緒にペースを作っていくこともご検討ください。