強迫性障害(𝗢𝗖𝗗)の治療について調べると、必ず「曝露反応妨害法(𝗘𝗥𝗣)」という言葉に行き当たります。
あえて不安な場面に身を置き(曝露)、手洗いや確認といった強迫行為をしない(反応妨害)。この方法は、世界標準の治療法です。
しかし、「手洗いを我慢するなんて絶対に無理」「怖すぎて治療を断念した」という声も、僕の相談室では後を絶ちません。
「治したいけれど、𝗘𝗥𝗣の苦痛には耐えられない」。そんなジレンマを抱えている方も多いのではないでしょうか。
今日は、真正面から苦痛に耐える𝗘𝗥𝗣だけが正解なのか?という疑問に対し、最新の研究知見と、より現実的で挫折しにくい、行動の置き換えというアプローチについてお話しします。
まず、最新の科学的なエビデンス(根拠)を見てみましょう。
𝟮𝟬𝟮𝟭年に『Comprehensive Psychiatry』誌に掲載された、Reid氏らによるシステマティックレビューとメタ分析があります。これは、強迫性障害に対する𝗘𝗥𝗣の効果を検証した𝟯𝟲のランダム化比較試験(参加者計𝟮𝟬𝟮𝟬名)を分析した信頼性の高い研究です。
この研究からは、非常に興味深い事実が明らかになりました。
つまり、「歯を食いしばって𝗘𝗥𝗣をやり遂げなければ治らない」というのは誤解である可能性があります。自分に合った、別のルートを探してもいいのです。
僕の臨床経験でも、真面目な方ほど「絶対に儀式をしてはいけない」と自分を追い込み、そのストレスで余計に強迫衝動が強まる「リバウンド」を起こすことがよくあります。
そこで提案したいのが、ただ耐えるのではなく、強迫行為を別の行動に置き換えるという手法です。
脳は「〇〇してはいけない(否定形)」と念じるとかえってその対象を意識してしまいますが、「代わりに〇〇をする(肯定形)」という指令なら実行しやすい性質があります。
強迫行為をしたくなったら、それと同時にはできない別の動作をあえて行います。これをハビット・リバーサル(習慣逆転法)などの文脈で使うことがあります。
「洗いたい!」「戻りたい!」という衝動のエネルギーを、我慢して内側に溜め込むのではなく、別の物理的な動作として外に逃がしてあげるイメージです。
行為自体をいきなりゼロにするのが怖ければ、やり方を少しだけ変えて、脳の「いつもの完璧な回路」を崩します。
これだけでも、「決められた通りにやらないと気が済まない」という強迫の支配力を弱める効果(エクスポージャー効果)が期待できます。
「完全にやめる」か「やってしまう」かの二択ではなく、脳がパニックを起こさない程度の小さな実験として取り組みます。
強迫性障害の治療において、𝗘𝗥𝗣は強力な武器ですが、苦痛に耐えることだけが治療ではありません。
最新の研究でも、𝗘𝗥𝗣以外の選択肢や、柔軟なアプローチの有効性が示唆されています。
「我慢しよう」として思考と戦うのではなく、「別の行動に置き換える」ことで、少しずつ脳の主導権を取り戻していく。そんな現実的な作戦から始めてみませんか?
一人で工夫するのが難しければ、一緒にあなたに合った「抜け道」を探していきましょう。