【論文紹介】解離性障害の謎を解く:神経解剖学の系統的レビューが明かす驚きの事実
公開日:2023/10/30 最終更新日:2023/10/30
論文
Lotfinia, S., Soorgi, Z., Mertens, Y., & Daniels, J. (2020). Structural and functional brain alterations in psychiatric patients with dissociative experiences: A systematic review of magnetic resonance imaging studies. Journal of Psychiatric Research, 128, 5-15.
はじめに:解離性障害とは
解離性障害は、記憶、意識、知覚、運動制御、アイデンティティなどの精神機能の統合が失われる症状を特徴とする。脱人格感や脱実感などが代表的な症状であり、PTSDや境界性パーソナリティ障害の患者に特に多く見られる。
研究の概要:脳画像研究のレビュー
本論文では、解離性障害患者を対象とした構造MRI、機能的結合MRI、課題関連MRIの研究33編を系統的にレビュー。対象となった疾患は離人感・現実感消失障害、解離性同一性障害、PTSD、境界性パーソナリティ障害である。
主な発見:脳の構造的・機能的変化
離人感・現実感消失障害 :側頭葉と後頭葉の灰白質体積の減少
解離性同一性障害 :側頭葉、前頭葉、扁桃体の灰白質体積の減少と前頭葉の機能的結合性の変化
PTSD :側頭葉と前頭葉の構造的変化、扁桃体と島皮質との機能的結合性の変化
境界性パーソナリティ障害 :側頭葉と後頭葉の機能的変化
解離性障害の特徴と考察
離人感・現実感消失障害 :知覚脱実感と関連し、側頭葉後部の変化がみられるが、記憶や人格の障害は少ない。
解離性同一性障害 :自我の断片化と関連し、前頭葉を含む制御系の変化がみられる。扁桃体の変化は共通のトラウマ歴を反映している可能性。
PTSD :トラウマ体験の結果として辺縁系の変化が生じ、一過性の解離症状を招く。
境界性パーソナリティ障害 :自己調整の困難さを反映し、制御系と情動調節系の変化が解離症状と関わっている。
今後の展望
症例数の増加、各疾患の解離症状と関連する脳部位やネットワークの特定、発症前後での経時的研究が重要。MRI研究の蓄積は、解離性障害の病態生理の理解と治療法の発展に資すると期待される。
専門用語と注釈
解離性障害 :記憶、意識、知覚、運動制御、アイデンティティなどの精神機能の統合が失われる精神疾患。脱人格感や脱実感などが特徴的な症状。
構造MRI :磁気共鳴画像法の一種で、脳の構造を詳細に描出する技術。脳の形態や体積の変化を観察するのに用いられる。
機能的結合MRI :脳の異なる領域間の機能的な連携を調べるためのMRI技術。脳のネットワークや情報処理の仕組みを理解するのに役立つ。
課題関連MRI :特定の課題を行う際の脳活動を観察するMRI技術。脳のどの部分が特定の課題に関与しているかを明らかにする。
灰白質 :脳の表面層にある神経細胞の体が集まった部分。情報処理や記憶、意思決定などの高次脳機能に関与している。
扁桃体 :感情、特に恐怖や不安を処理する脳の部位。トラウマやストレスに関連する反応に重要な役割を果たす。
島皮質 :脳の深部に位置し、痛みや温度、内臓の感覚などを処理する。情動調節や自己意識にも関与する。
離人感・現実感消失障害 :自己や周囲の環境が非現実的であるかのように感じる精神疾患。自己同一性の喪失や現実感の喪失が特徴。
解離性同一性障害 :複数の異なるアイデンティティが存在すると感じる状態。これらのアイデンティティは、それぞれ独自の行動、記憶、思考を持つ。
PTSD(心的外傷後ストレス障害) :極度のストレスやトラウマ体験後に発症する精神疾患。フラッシュバック、恐怖、不安などが特徴。
境界性パーソナリティ障害 :感情の不安定さ、衝動性、人間関係の問題などが特徴的なパーソナリティ障害。自己像や対人関係が不安定であることが多い。