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【論文紹介】小児期のトラウマと成人期の複雑性PTSD(CPTSD):自尊心の役割と専門用語の解説

はじめに

最近の研究により、小児期のトラウマが成人期の複雑性PTSD(CPTSD)に与える影響と、その過程における自尊心の重要な役割が明らかになりました。ここでは、この興味深い研究の概要と、その発見が私たちの理解と治療法にどのように貢献するかを探ります。

研究の背景

2018年、CPTSDは国際疾病分類(ICD-11)に新たな障害カテゴリーとして追加されました。これは、長期的かつ反復的なトラウマに関連し、PTSDに加えて「自己組織化障害」(DSO)症状を伴うものです。小児期のトラウマが成人期のCPTSD発症につながることは知られていますが、そのメカニズムはまだ解明されていません。研究者たちは、自尊心がこの関係の鍵となる媒介要因である可能性を探っています。

研究1:相関と媒介の探求

中国の大学生360名を対象に、小児期のトラウマ、自尊心、CPTSD症状についての調査を行いました。結果、小児期のトラウマは自尊心と負の相関があり、CPTSD症状とは正の相関があることが示されました。さらに、自尊心はCPTSD症状と負の相関があり、小児期のトラウマと成人期のCPTSDとの関係を部分的に媒介していることが分かりました。特に、DSO症状に対する媒介効果が顕著でした。

研究2:自尊心の操作

別の実験では、小児期のトラウマを経験した80名の被験者に対して、自尊心を操作するパラダイムを用いました。被験者を高自尊心群と低自尊心群に分け、CPTSD症状への影響を観察しました。高自尊心群は低自尊心群に比べてCPTSDの自覚症状が少なく、特にDSO症状が改善されていました。これは、低自尊心がDSOだけでなくPTSD症状も悪化させることを示唆しています。

臨床への応用

これらの発見は、自尊心が小児期のトラウマと成人期のCPTSDとの関係において、重要な媒介的役割を果たしていることを示しています。治療において自尊心の再構築を取り入れることで、CPTSDの治療効果が向上する可能性があります。

まとめ

この研究は、小児期のトラウマとCPTSDの発症の間に存在する複雑な関係を解き明かし、自尊心がその重要な媒介要因であることを示しています。自尊心の再構築は、CPTSD治療の新たなアプローチとして有望であると考えられます。

専門用語の解説

論文

Li, Y., & Liang, Y. (2023). The effect of childhood trauma on complex posttraumatic stress disorder: The role of self-esteem. European Journal of Psychotraumatology, 14(2)