PTSDとは何か?
PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、死の危険や重傷を伴う出来事に対する恐怖、無力感、戦慄を体験した後に生じる精神疾患です。この症状は、侵入症状、回避症状、過覚醒症状の3つのクラスターに分類されます。
米国におけるPTSDの有病率
米国の生涯有病率は約7%ですが、外傷体験者の75%以上がPTSDを発症していないことから、外傷体験そのものだけでなく、回復不能な生理学的ホメオスタシスの失敗がPTSD発症の鍵と考えられます。
外傷関連要因と個人差要因
PTSDリスク因子には、外傷の種類・重症度などの外傷関連要因と、家族歴、認知能力、幼少期逆境、回避性パーソナリティ、社会的支援などの個人差要因があります。
急性ストレスとPTSDの生理学的反応
急性ストレス曝露では、交感神経系の亢進、副腎皮質ホルモンの分泌亢進が生じます。これに対して、PTSD患者では、カテコラミンの持続的な上昇と、コルチゾールの低下が見られます。
海馬の役割とPTSD
海馬は、ストレス反応と記憶の両方に関わるため、PTSDの主要なターゲット領域と考えられています。PTSD患者では海馬体積の縮小が報告されていますが、この変化は外傷曝露そのものやコルチゾールの影響とは関連していません。
扁桃体の役割と恐怖条件づけ
恐怖条件づけは、PTSDの持続的な生物学的・心理学的恐怖反応を説明するモデルとして提唱されました。PTSD患者では扁桃体の反応性亢進が報告されています。
PTSD発症の個人差
動物研究は典型的なストレス反応に焦点を当てることが多いですが、PTSD発症の個人差を説明していません。個体内変動を調べることが重要です。
PTSDにおける遺伝的寄与
一卵性双生児研究からPTSDに遺伝的寄与が示唆されていますが、関連遺伝子はほとんど同定されていません。
発達神経科学的アプローチの重要性
PTSDの症状は生涯にわたって変動するため、発達神経科学的アプローチが重要です。リスク因子自体も経時的に変化しうるため、トランスレーショナル研究を通じて、個人差の生物学的基盤を解明し、予防と治療に役立てることが期待されます。
論文
Yehuda, R., & LeDoux, J. (2007). Response variation following trauma: A translational neuroscience approach to understanding PTSD. Neuron, 56(1), 19-32. https://doi.org/10.1016/j.neuron.2007.09.006